『Exocist: Reviewer of Minds』から学ぶ基本的確率論② ~このゲーム、司会者は誰(何)?~

『Exocist: Reviewer of Minds』から学ぶ基本的確率論②

ゲームの司会者は誰(何)?

 

 こんにちは、Berserkです。昇給通知が届き、少しテンションが上がった状態で執筆しております。前回の記事「アンセムって何回使えるの?」に引き続き、ローグライク祓魔シミュレーションゲーム『Exocist: Reviewer of Minds』について書かせていただきます。今回は最終章のみゲームルールに踏み込んだ内容となります。当該部分以外はプレイしていない方でも分かる一般的な内容となっていますが、ぜひ『Exocist: Reviewer of Minds』を実際にプレイして、確率の面白さに触れてみて欲しいです!(Steamにて定価700円(2024/07/06時点))

↑様々な聖句(カード)を駆使して悪魔の名前を当てることで祓魔する。

「アグリッパ」から連想するのはSF作家ウィリアム・ギブソンで、宗教的思想と現代技術の融合を意識させる。

  前回記事は作中のカード単体に焦点を置きましたが、今回はある有名な確率問題について知った上で、その知識をゲーム内の行動に活かせるか考える内容となっております。必要な数学レベルは前回よりも低い…はずです。

1.  確率界の超有名人「モンティ・ホール問題」

 皆さんは「モンティ・ホール問題」をご存知でしょうか?これはアメリカのとある番組がきっかけとなった議論です。(歴史的ストーリーは割愛しますが、ほんの35年前の出来事です)どのような問題かというと、

・当たり1つを含む3つのボールの中から、プレイヤーが1つを選ぶ。

・その後残った2つの玉から司会者がハズレのボールを1つ取り除き、プレイヤーはボールを選び直すことができる。

・このとき、プレイヤーが選択すべきなのは最初に選んだボールか、最初に選ばなかったボールか?

というものです。

 一見すると司会者の行為は無駄で、2つのボールから1つ選ぶだけなのでどちらを選んでも変わらない…ように思えますが、実際は「最初に選ばなかったボール」を選択すると、当たりを引く確率が選択を変更しない場合の2倍になることが知られています。

 この有名な話は確率の面白さを伝えると同時に、確率認識に対する疑念を抱かせるものです。例えば、『Exocist: Reviewer of Minds』において、特徴が全て一致する悪魔3択で悩んでいるあなた。何となく悪魔Aが怪しいと感じたあなたは、聖句「アンセム」を使用し悪魔Bを宣言したところハズレとの結果。あなたはモンティ・ホール問題にしたがって第三の悪魔Cに選択を変えるべきなのでしょうか…?この問いに自信を持って答えられない方こそ、続きを読むことをおすすめします。

2. モンティ・ホール問題の証明(簡易版)

 モンティ・ホール問題は容易に説明することができます。まず以下を仮定しておきます。

仮定1:3つのボールをA、B、Cと区別する。(考えやすくするため)

仮定2:プレイヤーが最初に選択するボールはAとする。

(ⅰ)Aが当たりの場合(確率1/3)

  司会者が取り除けるボール:BかC

  →司会者がBを取り除く確率は$\frac{1}{3}\times\frac{1}{2}=\frac{1}{6}$・・・①

   司会者がCを取り除く確率は$\frac{1}{3}\times\frac{1}{2}=\frac{1}{6}$・・・②

(ⅱ)Bが当たりの場合(確率1/3)

  司会者が取り除けるボール:C

  →司会者がCを取り除く確率は$\frac{1}{3}\times1=\frac{1}{3}$・・・③

(ⅲ)Cが当たりの場合(確率1/3)

  司会者が取り除けるボール:B

  →司会者がBを取り除く確率は$\frac{1}{3}\times1=\frac{1}{3}$・・・④

(ⅰ)~(ⅲ)から、

 司会者がBを取り除いたときにAが当たりである確率:

$$①\div(① + ④)=\frac{1}{6}\div(\frac{1}{6} + \frac{1}{3}) = \frac{1}{3}$$

 司会者がBを取り除いたときにCが当たりである確率:

$$④\div(① + ④)=\frac{1}{3}\div(\frac{1}{6} + \frac{1}{3}) = \frac{2}{3}$$

 司会者がCを取り除いたときにAが当たりである確率:

$$②\div(② + ③)=\frac{1}{6}\div(\frac{1}{6} + \frac{1}{3}) = \frac{1}{3}$$

 司会者がCを取り除いたときにBが当たりである確率:

$$③\div(② + ③)=\frac{1}{3}\div(\frac{1}{6} + \frac{1}{3}) = \frac{2}{3}$$

 仮定2でプレイヤーは最初にAを選択しているため、司会者がBを取り除いた場合、Cを取り除いた場合どちらにおいても、A以外のボールを選択し直す方が当たる確率は高くなることがわかります。

 また、最初に選択するボールがBだろうがCだろうが同様の議論ができるため、選択を変える方が当たる確率が高くなることが説明できました。

(簡潔に説明するために本説明で用いている「条件付き確率」については省略します。確率ゲームでは重要な概念なので興味があれば学習することをおすすめします)

ちなみに、ボールの数が何個に増えてもこの結果は変わらないです。(ボールn個のときの証明を考えると理解が深まると思います)

3. モンティ・ホール問題の応用

 前節の内容から、ボールの例では選択し直すのが正解だとわかりました。ただ、現実問題として、確率ゲームで起こる様々な状況に対してこの考え方が適用できるかどうか判断するのは難しいです。そこで、モンティ・ホール問題の確率の偏りがなぜ生じたのかを(感覚的に)理解していただくことで、様々な場面への応用が利くようになればと思います。

 モンティ・ホール問題において鍵を握るのは司会者であり、具体的には

・プレイヤーが最初に選択したものを取り除いてはいけない

・当たりを取り除いてはいけない

というルールに則って行動しなければなりません。これらの制約が存在するため、

①最初に選択したものが当たりかどうか判断不可能で、

②取り除かれた後の残りに確実に当たりが存在する

ことによって最初の選択結果が確率的に不利になると考えると分かりやすいのではないでしょうか。逆に言えば、①と②の条件さえ守ればモンティ・ホール問題を適用できるということになります。(モンティ・ホール問題を適用できる状況を「モンティ・ホール状況」と呼ぶことにします)なるべく広範に適用すると、私の考えるモンティ・ホール状況の定義は以下となります。

・ある集合$U$において、3つ以上の要素$m_1$~$m_n(n\geqq 3)$が存在する。

・$U$内に当たりの要素が1つのみ存在する。

・$U$から2つ以上の要素$m_1$~$m_k(1\lt k\lt n)$を選び、そこから当たり以外の任意の数の要素$m_{1}$~$m_l$$(1\leqq l\lt k)$を$U$から除外する。

・上記操作後、$m_{l+1}$~$m_k$と$m_{k+1}$~$m_n$からそれぞれ無作為に1要素$m_x$、$m_y$を抽出し、当選確率を$p_x$、$p_y$とすると、$p_x\gt p_y$

数学用語で書いてしまうと難しいですが、平たく書くと以下です。

・当たり1つを含む3つ以上のボールの中から2つ以上の好きな数のボール取り出して箱Aに入れ、残ったボールを箱Bに入れる。(箱Bに1つ以上のボールが入るようにする)

・箱Aに入っているボールの中からハズレを1つ以上取り除く。(箱Aに1つ以上のボールが残るようにする)

・最後に箱Aと箱Bから1つずつボールを取りだしたとき、箱Aから取ったボールが当たりである確率の方が高い。

 実際に定義してみると、それなりの汎用性と実在性がありそうなものができました。確率ゲームにおいては操作手順の工夫によってこの状況を実現できれば確率的優位を獲得できるわけですので、覚えておくと役に立つかもしれません!

(本来数学的概念の拡張には証明が必要になります。今回は気力が追い付かず証明していませんが、次回以降どこかの記事で証明できればと思います)

4.『Exocist: Reviewer of Minds』では役に立つ?

 ここまできてやっと本題となるわけですが、前節において定義した「モンティ・ホール状況」は悪魔祓いの中で登場するのでしょうか?

 モンティ・ホール状況においては「部分集合中のハズレ確定要素を除外する」(=司会者)操作が不可欠かつ最も特徴的です。この役割を担うゲーム内要素はなかったでしょうか?……そうです、「聖句」です。例えば「ファクション」を詠唱して悪魔が「奇数」と答えれば級位が2の倍数の悪魔はハズレとして除外されるわけです。ここでは、どの聖句がモンティ・ホール状況を満たすか考えてみます。

①級位・出身限定系(ファクション・ナンバー・セブン・ディバイド・ホーム)

 聖句の効果が悪魔全体のため、「部分集合中のという条件を満たしません。

②単体指定(アンセム

 唯一単体に効果を及ぼせるのが「アンセム」ですが、効果対象がハズレかどうかは不確定のため、「ハズレ確定要素」の条件を満たしません。

③ランダム指定系(スカラーオーソリティ・レイン)

 聖句の効果が悪魔全体のため、「部分集合中のという条件を満たしません。「ハズレ確定要素」については、オーソリティ・レインの場合に対面が「廊下の悪魔」だと満たしませんが、「寝室の悪魔」だと条件を満たします。(オーソリティは未強化の場合のみ)

↑補足:スカラーオーソリティの効果対象は十字架の立ったロウソクの位置から特定可能(表示が一瞬なので難しい)

①~③より、『Exocist: Reviewer of Minds』においてモンティ・ホール状況を起こす聖句は存在しません。つまり、表題の答えとしては「司会者は存在しない」が正解ということになります。結果としては知識を活かせる場面がなく残念ですが、このような状況がないことが分かったこと自体に意味があると考えています。モンティ・ホールの錯覚に囚われず、正しく確率を認識する助けになれば幸いです。

以上、長くなりましたが読んでいただきありがとうございました!

 

(あとがき)

今回は着地点が見えづらく、特に4節は自分の論理思考が正しいのか自問自答を繰り返しながらの執筆でした。内容の正しさにあまり自信がないので、もし間違い・考慮漏れなどありましたら是非ご指摘ください。

オーソリティ・レインについてはかなりモンティ・ホール状況に近い聖句で、例えば聖句「モンティ・ホール」(効果:悪魔全体をランダムに2つのグループA・Bに分け、次に詠唱する聖句の効果はグループAにのみ適用する)が存在したと仮定すると、寝室の悪魔の前で「モンティ・ホール」→「オーソリティ」の順で詠唱するとモンティ・ホール状況が再現できることになります。クリエイター側の機転次第で簡単にモンティ・ホール問題が起きうることを確認できたことが、個人的な一番の収穫でした。